昔、東急東横線の渋谷駅が「地上」にあったことを、知らない人も増えてきたのかもしれません。
2013年3月15日。
約50年にわたり、「鉄」のみならず渋谷駅を利用してきたすべての人に(きっと)愛されてきたであろう地上駅が姿を消し、その翌朝から現在の地下ホームへと移設されました。
すっかり街並みを変えてしまった渋谷駅には今もその「かまぼこ型」の遺構がかすかに残されています。
・・・まあ、今の渋谷駅に言いたいことは山ほどありますが、本筋ではないのであえてここでは触れません(苦笑)。
旧・渋谷駅東急線ホームは現在の地下鉄駅タイプとは違い、広々とした多面の「島式」ホームから、代官山方面に向かいやや湾曲しながらも、線路が抜けるように伸びていく美しい情景。
当日、渋谷駅発の最終電車に乗ると、その車内にもホームにも駅周辺にも、たくさんの人がその別れを惜しむように集っていたのを今でもはっきりと覚えています。当時から、撮り鉄や葬式鉄(電車や駅が廃止になるときに駆けつける鉄オタのこと)のマナーが問題視されるなか、確かに混雑はしていましたが、ニュースでよく流れる動画なんかに比べると、あの日は比較的穏やかでマナーも守られていたほうだったと思います(多少、記憶の美化はあるかもですが)。
車内アナウンスに拍手や感謝のエールが誰からともなく起き、(東京の通勤電車で普段は絶対に見かけない)車内の乗客と沿道をゆく人が見知らぬ者同士お互いに手を振り合うなど、その夜は失われゆく鉄道の景色と同じぐらい、なんだか切なくもあたたかい空気に満ち溢れていました。
ホームを保存して施設などとして再利用してほしいという声も多く、しばらくはイベントスペースとしても開放されていましたが、その後あっという間に線路ごと消え去ってしまった、渋谷駅の旧・東急東横線ホーム。
それから約10年。実は今でも、それに近い情景が都内に残っています。
それは東急多摩川線と東急池上線、ふたつの路線の始発(終着)駅でもある、東急蒲田駅のホーム。
夕暮れ近くなると、線路の向こうが見えないほどに眩しく、沈みゆく太陽が駅と人々を照らします。
言いたいことはひとつだけ。お願いだから、そのままで。